MARKET yoridori×生産者たち

No.3

No.3

  • 2016
  • つくるひと

こだわりはかっこいい。

– 宮崎 敏史 –食を想う

優しい笑顔と職人としての熱い想い持つ宮崎店長

 「朝起きた瞬間からパンのことを考えます」。有限会社山田宝来堂HORAIのパン職人、宮崎敏史店長の1日は目覚めと共に始まる。その日の天候を見て仕込み方法を考え、生地作り、成型、焼き上げを一気に行う。パンの仕込みは朝が一番忙しい。「忙しい時は夜中の2時頃から作業を始めます。
体力的にも大変だけど、これからもパン作りを続けていくと思います」。
パン作りに人生を捧げる宮崎店長が、今回odoriのウミガメバーガーのパンを手がけた。ウミガメをモチーフにしたパンを作ってくれという突然の依頼が職人魂に火をつけた。「僕が思うパンとは違うイメージを提案されて、これは味で納得させるしかないなと。ただ正直言うと、あれはハプニングから生まれたんです」と、ウミガメバーガーの誕生秘話を教えてくれた。強くなりすぎるバターの味をどう調整するのか。試行錯誤を繰り返す中でハプニングにより生地が薄くなりすぎた。その限界まで薄くなった生地が、程よいバターの風味を出してくれた。このハプニングを成功に繋げられたのも、宮崎店長が常日頃からパンのことを考えている賜物なのかもしれない。今やodoriの人気メニューであるウミガメバーガーを作り上げた宮崎店長は「こんなにもパンに注目してくれるバーガーを作れたことは嬉しいですね」と、またパン作りに魅了されている。

店を構える牟岐町はサーファーが集い海に囲まれる

 宮崎店長の関心はパンだけでなく「食」全般に広がっている。「人間にとって食はなくてはならないもの。その食に関われることを誇りに思う。パン作りを通じて食べることのありがたみを伝えていきたいですね」。ありがたみを持つと、食べることがしあわせになる。「食」がいかに大切かを想う宮崎店長の言葉を、今、実感する。

– 吉永 真由美 –カタチになるとき

笑顔が素敵な吉永さん

 秋の爽やかな風が木々を揺らし、果実を積んだ軽トラックの走る音が遠くで聞こえる。山に囲まれたのどかなこの場所に、どんな困難もチャンスに変えてしまうアイデア溢れる女性がいる。
 果樹や生姜の生産、加工を行う『西地食品有限会社』の吉永真由美さんはこの日も自社農園や契約農家の畑、自社工場の間を忙しく駆け回る。小柄な身体からみなぎるパワーと太陽のように明るい笑顔。そんな吉永さんの手にかかれば、素材は余すことなく商品に変わる。果汁だけでなくすだちや柚子の皮は食品用の粉末やペーストに。それでも残る部分は畑の肥料となって新たな作物を育てる。シンプルで無駄がなく、素材への愛情も感じる。

毎年恒例の「生姜大収穫祭」。スタッフさんも大集合

 商品ラインナップの多い西地食品だが、もちろん商品開発はそう簡単なことではない。冷蔵庫を開けると足元まで迫るほどのすだちの在庫を抱えて途方に暮れたことや、突然取引先から製造打ち切りを申し出されたこともある。「それでも、なんとかカタチにしようと頑張っていたら周りの方が助けて下さって。私は本当に運がいいんです」。そういって少し恥ずかしそうに笑った。
 そんな吉永さんに商品を作る上で譲れないことを尋ねてみた。「やっぱりいいものを作りたい。無駄なことはしたくない」。それまで大変な過去も笑い飛ばしながら話していた彼女が、ゆっくりと自分に言い聞かせるように発したその言葉に、チャーミングな笑顔の奥にものづくりに対する芯の強さを感じた。
 定年後の話を伺うと「60歳くらいに会社は息子に譲って、私は試食販売で全国を回りたいの」と表情を輝かせた。あれ、また仕事してるわね、と笑う目は夢と好奇心に満ち溢れていた。

– 原 雄輝 –美しいを求めて

看板のオレンジは人参の色なんです、と微笑む原さん

 美波町から車で約1時間半。渦潮とわかめで有名な鳴門市に、odoriオリジナル生ドレッシングの共同開発、製造したドレッシング専門店の『美味フーヅ株式会社』がある。
 代表の原雄輝さんが初めて徳島に来たのは26年前。就職した食品会社の最初の赴任先が徳島だった。食べ物が美味しく、自然が多いところが気に入ったという。その後全国各地で勤務したが、いずれは徳島に住みたいという気持ちは変わらなかった。そして、原さんは勤務先で人生を大きく変えるものに出会った。生ドレッシングだ。その味に感動した原さんは自分でもオリジナルの生ドレッシングを作りたいと思い、徳島に移住後、美味フーヅをオープンする。
 原さんには創業当時からこだわり続けていることがある。1つは「生ドレッシング」であること。火を通さないフレッシュなドレッシングは野菜の美味しさをさらに引き立たせる。

キッチンにて。1つ1つ手作りでドレッシングを作っている

 もう1つは、地元食材を使うこと。「地元の人には当たり前になっているけど、徳島には良い食材がいっぱいある。それを活かさんともったいない」。その言葉通り、美味フーヅには人参やらっきょうなど徳島の隠れた食材を使った商品が並んでいる。地元食材を活かした商品開発ができるのも、移住してきた原さんだからだろう。
 そしてこだわりは店名にも表れている。「食品は美味しくなければならない」という思いで美味フーヅと名付けた。店名ひとつを取っても原さんの「美味しい」に対する情熱を感じることができる。
 「美味しかったっていう反応が嬉しいですね。特に子供に言ってもらえたら一番嬉しい」。美味しさを求め続ける原さんの想いは、これからもたくさんの人の「美味しい」に繋がっていく。