MARKET yoridori×生産者たち

No.1

No.1

  • 2016
  • 野菜

野菜が美味しい。

– 小林 エイ子 –自分の好きな野菜を作る

苦味が美味しいアーサイや軒下で干されるお餅やピーナッツ。

美波町の山間部で野菜を作っている小林エイ子さんは、小柄で日焼けしたツルツルの肌が印象的な女性だ。「年齢は秘密」と笑いながら、畑を機敏に動き回る姿に、作る野菜同様エネルギーを感じる。
「今は”コールラビ”や”プチベール”を作っているのよ」珍しい野菜を生産しているエイ子さん。本を見て、目新しい野菜を発見すると作ってみたいと思うのだ。ご自宅の庭先には、初挑戦の野菜が育てられていた。「余ってしまった野菜は自分で食べる。だからこそまずは作って食べて、美味しいと思ったら商品として扱うようにしているんです」この周辺では、馴染みない野菜は手に取ってもらえないのが現状だ。そのため、調理の仕方を一枚一枚手書きで袋に貼って出荷し、少しでも多くの方に知ってもらおうと工夫を欠かさない。

今年から挑戦し始めたプチヴェール

今でこそ無農薬や有機という言葉を耳にするが、エイ子さんは三十年も前から基本的に農薬は使用せず、キトサン、米糠などを独自にブレンドし、発酵させた堆肥を使用している。出来上がった堆肥はふわっとした感触で、甘い香りがする。手作りであるがゆえに堆肥が害虫に侵されることもあるが、それでもなおその手法は崩さない。収穫量よりも出来上がる野菜の甘みを第一に考えているからだ。odoriの林シェフをはじめとして、エイ子さんの野菜は味が濃いと評判だ。
「草取りをしない言い訳みたいだけど…草の育たないところに野菜は育たないからね」畑には無造作に雑草が生えている。自然の摂理に従って育てられる野菜たちの味を、あらためて噛み締めようと思わずにはいられなかった。

– 横尾 昇 –野菜が美味しくなる話

笑顔の先には収穫したばかりのほうれん草

odoriのサラダを彩り、産直コーナーにも並ぶ野菜たち。肉厚で味が濃い春菊やほうれん草などを育てる横尾昇さんは、牟岐町にあるビニールハウスで4種類の野菜を栽培している。
甘やかすことなく、できるだけ野菜本来の強さで成長させたいと話す横尾さん。それを象徴するように、水は種を蒔いた時にしか与えない。野菜は水を求めて地中の奥深くまで根をはり、自力で地下水を吸い上げる。このスパルタ教育とも言える栽培方法が、野菜の旨味や食感を生み出す。厳しい暑さを懸命に耐えている野菜の姿を見ると、つい水を与えたくなってしまう。だから夏場はビニールハウスには入らない、という言葉からは横尾さんの優しい人柄が垣間見られる。

牟岐町の自然と収穫で使用する特殊な鎌には通常とは違う向きで刃が付いている

「自分が不精やけん」と謙遜する横尾さんだが一番のこだわりを尋ねると力強く話してくれた。「採れてから2日間売れ残ったら処分。鮮度が落ちたものを食べて欲しくないし、野菜に店番はさせたくない」さらに収穫された野菜は、いったん冷蔵庫に移し、呼吸を止めることで鮮度を保っている。手間を惜しまず妥協をしない姿勢からは、野菜と消費者への愛情が感じられる。
「とにかく鮮度が違う。野菜の生命力を感じる」odoriの林シェフも横尾さんの作る野菜に魅了されている。毎朝野菜を届けてくれる横尾さんの真摯な姿を、料理を通してお客様に伝えることがodori役目だ。

食べることは喜びであり、幸せである。odoriの一皿を更に美味しくしてくれる話が聞けた。

– 竹原 正 –定年後のアナザーストーリー

畑を見つめ微笑みながら話す横顔に、野菜作りを楽しむ様子がうかがえる

「定年後の方が忙しくなって、あなたはおかしい。って妻に言われたよ」

竹原正さんは、そう言ってはにかむように笑った。小春日和を象徴するような暖かな日差しが射す冬のある日、美波町奥河内に位置する竹原さんの畑を訪れた。赤色のネルシャツに青いアウトドア用のアウターを重ねた服装で現れた姿は、私がイメージしていた農家さんのそれとは異なり、センスの良さを感じる。
高松市内の会社で定年まで勤め上げた後、米作りを行っていた奥さんのご実家で畑の一角を使い菜の花作りを始めた。

味にクセがなく、どんな料理にも合うロマネスコとロマネスコに枯葉を被せて日焼けを防ぐ

今では3か所ある畑に、季節毎に何種類もの野菜を作っている。
竹原さんが作る野菜は、聞き慣れないものが多い。ロマネスコに、ビタミン大根、紅菜苔(コウサイタイ)など。見た目にも珍しいこれらの野菜を作り始めたきっかけを伺うと、ボソッと「興味があって」とだけ答えてくれた。こだわりを感じるが、多くは語らない。

odoriの林シェフは、竹原さんの野菜を「凛々しい野菜」だと言う。野菜には作る人の人柄が表れるのだとか。ふと、カメラマンが撮影の邪魔になるとロマネスコの上に被さっていた枯葉を捨てようとした時、「枯葉はロマネスコを日焼けから守るために被せているから」と教えてくれた。愛情を持って野菜を育てる。まっすぐな想いに凛々しさを感じた。
今後の目標は、あまり世の中に出回っていない珍しい野菜をより多くの人に知ってもらうことだという。竹原さんの作るユニーク野菜を、あなたもodoriで探してみてはいかがだろうか。