MARKET yoridori×生産者たち

No.4

No.4

  • 2018
  • 海のめぐみ

美波の海を味わう。

– 浜口 和弘 -海の男の包容力

徳島県美波町で造船業を始めとする多数の仕事に従事。明朗さと細やかな気遣いの心を併せ持つ、地元の顔である。

午後四時、目の前に広がる海では、ちょうど夕日と地平線が触れ合おうとしていた。約束の時間に姿を見せた浜口さんは、真冬にも関わらず、日焼けをした精悍な顔。一目見て海の男を感じさせる。浜口さんは数多くの仕事を持っている。造船業、廃船業、防水業、釣具屋、漁師、ネット販売、干物販売…。周りに勧められたり、必要とされていることをしていると、自然に増えていったとか。取材中にも、同じ集落の一隻の船でトラブルが起きたことに気づくやいなや、「だれかがやらなしゃーない」と、船の陸揚げ作業を手伝いに走った。必要とされることがあると、見返りを求めず、助けに走る情の熱さ。ほれぼれするような行動力だ。

何種類もの干物を加工・販売する。調理技術は独学で身に付けた。

odoriで販売している浜口さんが作ったサバフグや、ウツボの干物は、友人に自家製を食べてもらったところ「美味しいから販売したら」と勧められて商品化したもの。干物をみせてもらうと、「せっかくやし集会所で一杯やらんけ」の一言ですぐに試食会という名の飲み会が始まった。サバフグの干物は骨がなくて都会の人から人気らしい。浜口さんは和風だしを使ったきも鍋で食べるのが好きだそう。ウツボはコラーゲンがたっぷり。以前、港の集会所に迷い込んだ観光客にうつぼを食べさせたら、乾燥肌が治ったとか治らないとか。集会所には自然と人が集まってくる。この日も浜口さんの友人が釣った太刀魚を持ってやってきた。この集落には広大な海や山の「自然」だけではなく、お互いを「自然体」で支えあいながら生きていく文化があることをひしひしと感じた。ちょっと真面目なことを言うと、冗談ではぐらかす。海の男ならではの豪快さと明朗さ、そして大きな包容力。浜口さんの周りには笑いが絶えない。魚の網焼きと石油ストーブの匂いが充満した集会所には、浜口さんや友人たちとの温かさに包まれていた。

– 江本 達也 -カタチになるとき

美波町恵比須浜の漁師では2番目の若手。自ら開発した『沖漬け』は、リピーターの多さも特筆ものだ。

サテライトオフィスとともに美波町に移住してきた面々からは「達兄(たつにい)」と呼ばれ、慕われている江本さん。彼自身も高校卒業後、一度は地元を離れたUターン経験者であり、地元と彼ら、双方の気持ちをつなぐ貴重な存在となっている。プロの料理人として大阪にいた20代半ば。家業だからいつかはとかねがね思っていたこともあり、それほど迷うこともなく美波に戻った。

ウツボを一夜干しに。漁だけではなく、加工や調理のプロでもある。

漁業には厳しい時代と言われる昨今だが、そもそも自分たちの世代は“良かった時”を知らない。「何にしても厳しいもんちゃうの? 仕事って、商売ってみんなそうやろ」自然相手。同じ潮目、条件は二度とない。「同じ条件があったところで獲れる、獲れないはまた別の話。海相手に正解はない。だから漁師は面白い。漁師はトレジャーハンターみたいなもん」個人操業がほとんどの美波。季節に合わせて様々な漁を行うのが主流だが、出漁できるのは年間100日前後。隙間と言うには大きい期間を埋めるために始めたのが加工・販売で、そのきっかけがodoriだった。最後にodoriの林シェフのことを聞くと「同世代だから。他の子らも一緒で、仕事仲間というより遊び仲間」と。「まあ、助かってるけどね」と付け足す時の笑顔に、移住者たちを惹きつける人柄が垣間見えた。

– 津田 貞美 -漁船、若武丸

美波町の港町由岐で、家族と共に漁船「若武丸」を操業。多様な漁法を用いアオリイカ、イセエビ、ウツボ、アワビ、サザエなどの多種多様な海の幸を漁獲。

冷え込みの厳しくなってきた12月の朝8時。日和佐から車で15分ほど走ったところにある由岐漁港で、漁船「若武丸」を操業する津田さんに話を伺った。「船から見る朝日を見せてあげればよかったね」と津田さん。6時から港に出て仕事をされているそう。船の生簀いっぱいに、ウツボやアナゴ、フグやカワハギなど先ほど獲れたばかりの魚が泳ぐ。船上では、網にかかった獲物を外し、畳み直す作業が続いている。若武丸は、家族5人で操業しており、冬場はアオリイカやイセエビ、ウツボ、春から夏はアワビやサザエ、ナマコなど一年を通じて様々な漁業を行っている。津田さんは由岐に嫁いできた21歳の時から漁に携わる。なかでも「かつぎ」と言われる海女漁が大好きで、「海が透明でとんでもなく綺麗。タコやチヌ(クロダイ)と並んで泳ぎながら海底にいるトコブシを狙うの」と目を輝かせた。

漁から戻ると次は船内での作業。精進蟹を無傷で網から外すのにはひと手間かかる。

イセエビの漁期限定で、エビ網に混獲される「精進蟹」をodoriに提供している。「カニからドレッシングを作ると聞いて、目の付け所がすごい、と驚いた。」通常は網に絡まる厄介者として捨てられる精進蟹を、一匹一匹丁寧に網から外す。味噌汁にして食べる地域もある精進蟹だが、津田さんは食べたことがなかったという。昨年シェフの林さんが届けてくれたドレッシングの試作品について「今まで食べたことがない味で、美味しかった。これならみんなに喜んでもらえるなって」と嬉しそうに笑った。「船が漁から戻ったら、干物の準備。風のある日を狙って、なるべく早く乾かす方が美味しくなるんよ」津田さんの一日は息つく間もない。